軽自動車のワンボックスカーは、室内が非常に広いのが魅力です。「N-BOXなら知っているけれど、ワンボックスという車は聞いたことがない」という人は、この機会に、ぜひ軽自動車のワンボックスカーのことを知ってほしいです。ワンボックスとN-BOXでは何が違うのか、広さの秘密やおすすめの車について解説します。
軽自動車のワンボックスタイプとは
ワンボックスと言う名前の軽自動車は存在しません。ワンボックスとは車名ではなく、車の構造を表すタイプのことをさします。ワンボックスとはその名の通り、車全体が一つの箱(ボックス)のようになっているもので、車体の前部から後部まですべてを室内として利用できることから、もっとも空間効率に優れた車と言うことができます。
このワンボックスという言葉自体が日本独特のもので、海外には存在しません。この言葉は自動車開発の現場から生まれたものではなく、営業の立場からユーザーに車内の広さをアピールするために、ワンボックスカー(一つの箱のように大きな空間を持つ車)という名前が付けられました。
エンジンが座席下で後輪駆動
ワンボックスカーの最大の特徴は、エンジンやトランスミッション、ドライブシャフトといった駆動系のパーツを、すべて車体の下部に収めていることです。キャブ(室内)がタイヤを含めた走行装置よりもオーバー(上)な位置にあるという意味で、自動車専門用語では<キャブオーバー>と言います。
いわゆる運送用のトラックと同じで、トラックのキャビンと荷台の代わりに箱形のボディを乗せたものがワンボックスカーとなります。このキャブオーバー型のワンボックスカーにはいくつか種類があります。
世界初のワンボックスカーはVWタイプ2
世界初となった車は、リアエンジン後輪駆動のフォルクスワーゲンタイプ1(ビートル)をベースに、上に箱形のボディを乗せた1950年の<タイプ2トランスポルタ―>で、日本では<デリバン>の愛称で人気の車です。
日本初のワンボックスカーは、日野自動車が1960年に発売した<コンマース>です。これは車体前部に搭載したエンジンの真上に座席があるFF(前輪駆動)車でした。合理性を考えて設計された車でしたが、荷物をたくさん積んで走るのにFFは技術的に難しく、早々に姿を消します。
ハイエースの登場でFR方式のキャブオーバー車が主流となる
次に登場したのが軽商用車の<スバルサンバー>で、この車はVWタイプ2と同じリアエンジン後輪駆動が採用されました。サンバーは市場で大成功を収め、長年に渡り愛されるロングセラーとなります。その後、1967年に<トヨタ ハイエース>が誕生します。ハイエースは、日野コンマースと同じで座席の真下にエンジンを搭載していますが、こちらは後輪駆動のFR方式を採用しました。
このFR後輪駆動のキャブオーバーは、構造が単純で信頼性が高く生産性にも優れていることから、ワンボックスカーの主流となります。その他には、エンジンを前輪と後輪とのちょうど真ん中付近に搭載した、いわゆるミッドシップ方式のワンボックスカーも存在します。
このタイプは、普通車では初代のトヨタ エスティマ、軽商用車ではホンダのアクティーバンに採用されましたが、いずれも現在は姿を消してしまいました。
車内が軽自動車で一番広い
ワンボックスカーは、軽自動車の中で車内が一番広い車です。その理由は、キャブオーバー構造により車体の前から後ろまですべてを室内スペースとして利用することができるからです。かつては普通車でもワンボックスカーが各メーカーにラインナップされ、ビジネスやレジャーなどで人や荷物を多く乗せるユーザーから支持されていました。
しかし、キャブオーバー型ワンボックスカーはその構造上、車体の重心が高くなるという欠点があります。重心が高いと車内が揺れやすく、仕事や旅行などで長距離を走行する普通車のワンボックスカーでは、走行安定性や乗り心地の面でユーザーから不満の声があがっていました。
こうしたデメリットから、車体の重心が低く操縦性や走行安定性、乗り心地に優れたFF方式のミニバンへと取って代わられることになります。現在では、普通車のワンボックスカーで残っているのは、トヨタ ハイエースと日産キャラバンのみとなりました。
商用車に多い
かつては主流だったワンボックスカーも普通車ではほとんどが姿を消してしまいましたが、街乗りがメインの軽自動車ではそのデメリットがそれほど問題になりません。市場で人気が高いのはホンダN-BOXを中心としたFF方式の軽スーパーハイトワゴンですが、キャブオーバー型FRの軽ワンボックスカーもまだまだ存在感を示しています。
軽ワンボックスは特に商用車として広く親しまれており、街の電気店やクリーニング店の車として大活躍中です。FFのスーパーハイトワゴンよりもさらに室内が広く、たくさん物を積めるうえに小型で小回りが利く軽ワンボックスは商用車に最適です。
また、人気の軽キャンピングカーのベース車両には、室内の広い軽ワンボックスが最適です。
おすすめワンボックス軽自動車エブリイワゴン
軽自動車でも、室内はできるだけ広い方がいいという人にぜひおすすめしたい軽ワンボックスの代表車が、スズキ エブリイワゴンです。エブリイワゴンは、スズキの軽商用車の大ベストセラー、<エブリイバン>の乗用ワゴンタイプです。街で頻繁に見かけるエブリイバンはビジネス車として長い歴史を持ち、いろいろな職業の人に愛用され続けている信頼性の高い車です。
その中でも外装をあらためて乗用車としたエブリイワゴンの魅力は、驚くほどに室内が広いことです。一体どのくらい広いのか、年間ベストセラーを獲得し続けている大人気の軽スーパーハイトワゴン、ホンダN-BOXと比べてみましょう。
N-BOXとエブリイワゴンの室内寸法を比較
- N-BOXの室内:長さ2,240x幅1,350x高さ1,400(mm)
- エブリイワゴンの室内:長さ2,240x幅1,355x高さ※1,420(mm)
※ハイルーフ仕様。ノーマルルーフは1,315mm
両車の室内寸法を比べると、N-BOXよりもエブリイワゴンの方が室内幅で5mm広く、またエブリイワゴンのハイルーフ仕様ではN-BOXより室内高が20mmも高くなっています。とはいえ、この数字を見る限りではどちらも荷室の広さにそれほどの違いは感じられません。
しかし、注目すべきは室内に荷室スペースを加えた全体の車内空間の広さです。これを見ると双方の違いが明らかになります。
荷室の広さ(4名乗車時)
- N-BOX:長さ435x幅910x高さ1,165(mm)
- エブリイワゴン:長さ655x幅1,385x高さ1,240(mm)
エブリイワゴンの荷室が非常に広いことです。4名乗車でも655×1,385x1,240(mm)と、あらゆる面でN-BOXを上回っており、特に荷室の長さは220mmもの差があります。この数値から室内と荷室を合わせた全体の長さを比較すると、N-BOXが2,240+435=2,675(mm)、エブリイワゴンが2,240+655=2,895(mm)となり、エブリイワゴンが広いことが分かります。
また、後部座席を収納した2名乗車時の荷室の広さは以下のようになります。
荷室の広さ(2名乗車時)
- N-BOX:長さ1,440x幅910x高さ1,165(mm)
- エブリイワゴン:長さ1,910x幅1,385x高さ1,240(mm)
やはり車内の広さと使い勝手では、キャブオーバー構造で軽ワンボックスのエブリイがFFレイアウトを持つスーパーハイトワゴンのN-BOXを圧倒しています。これだけの広さがあれば車中泊も可能で、寝袋や調理器具などのちょっとしたキャンプ用品を積んでおけば、お手軽なキャンピングカーとして使用可能です。
OEMの元にもなっているスズキの大人気車種
エブリイワゴンのベースとなるエブリイバンは、長年、軽商用車のトップに君臨するビジネスユーザーご用達の大人気車種です。多くの人々から愛され続けている車だけに、スズキの販売ネットワークだけではもったいないと、エブリイシリーズは各自動車メーカーへとOEM供給されています。
乗用車エブリイワゴンのOEM車は、<日産NV100クリッパー リオ>、<マツダ スクラムワゴン>、<三菱タウンボックス>の三車があります。
スズキエブリイワゴンの性能
エブリイワゴンのエンジンは、三種類ある全グレードで660cc直列3気筒のターボエンジンを搭載し、4速のトルコンATが組み合わせられ、最高出力は64馬力を発揮します。車両重量は980kgとやや重いため、パワフルな走りは期待できません。
重心の高い軽ワンボックスは乗り心地にも不利ですが、乗用車用にサスペンションのセッティングを上手く調整することで、十分に快適な走りを実現します。燃費も優秀で、カタログ値で16.2km/L、実燃費で12.76km/Lというなかなかの数字です。
速く走るのは苦手なエブリイワゴンですが、休憩をしながらのんびりと旅行やレジャーを楽しみたい人にはおすすめの車です。
リセールバリュー
エブリイワゴンの人気グレード<PZターボスペシャル ハイルーフ>(新車価格153万円)の2年落ち走行2万kmの買取相場は115万4,000円で、リセールバリュー率は75%という素晴らしい数字です。エブリイワゴンではどのグレードを選んでもリセール率は70%を超えており、とてもお買い得な車と言えます。
おすすめワンボックス軽自動車アトレーワゴン
アトレーワゴンは、ダイハツの軽商用車として実績のある<ハイゼットカーゴ>をベースにした乗用ワゴンです。アトレーの魅力は、やはり車内空間の広さです。
アトレーの室内寸法
-
- 長さ2,020x幅1,310x高さ1,350(mm)
荷室寸法(4名乗車時)
-
- 長さ850×幅1350×高さ1210(mm)
荷室寸法(2名乗車時)
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- 長さ1760×幅1360×高さ1180
室内と荷室を合わせた車内の長さ
- 2,020+850=2,870(mm)
アトレーワゴンの車内は、室内と荷室を合わせた長さが2,870mmとエブリイワゴンに匹敵する広さを持ち、多彩なシートアレンジや開口部の広いリアハッチゲートなど、使い勝手に優れた車です。
エブリイのライバルとして各社にOEM供給される
アトレーワゴンを含めたハイゼットシリーズもエブリイと同じく各社にOEM供給されています。軽商用車のハイゼットカーゴと軽トラックのハイゼットは、トヨタとスバルに向けて、乗用ワゴンのアトレーは<ディアスワゴン>として、スバルにOEM供給されます。
アトレーワゴンの性能
アトレーワゴンも、エブリイと同じ全車に660cc直列3気筒ターボエンジンと4速ATが搭載され、最高出力は64馬力です。気になる燃費は、カタログ値で15.2km/L、実燃費が12.21km/Lとなかなかの数字です。乗り心地も街乗りなど通常の速度なら、不満のないレベルの快適性を備えています。アトレーものんびりと旅をするのには良い車です。
リセールバリュー
アトレーワゴンの人気グレード<カスタム ターボRS SAⅢ>(新車価格142万円)の、2年落ち走行2万kmの買取相場は90万6,000円、リセールバリュー率は64%です。新車の販売台数がライバルのエブリイワゴンよりずっと少ない少数派のアトレーワゴンは、リセールでも大きく後れを取っています。買取価格をアップしたいなら、スマアシⅢの装備は必須でしょう。
おすすめワンボックス軽自動車NV100クリッパー
日産のNV100クリッパーは、エブリイバンのOEM車で、市場では堅実な売れ行きを見せる人気車種です。
安全性も追求した日産のワンボックス
NV100クリッパーの魅力は、軽ワンボックスならではの積載能力の高さはもちろん、働く人が安心して使えるよう安全性を追求していることです。
万が一の時に衝突の危険を回避したり、被害を軽減する<インテリジェント エマージェンシーブレーキ>、アクセルペダルの踏み間違いを防ぐ<エマージェンシーストップシグナル>など先進の安全装備を搭載し、JNCAP評価で<ASV(先進安全車)>を獲得しています。軽商用車ながら日産車としてふさわしい品質を備えています。
日産NV100クリッパーの性能
エンジンは660cc直列3気筒で、自然吸気(最高出力49馬力)とターボ(最高出力64馬力)をラインナップしています。特筆すべきは自然吸気エンジン車の燃費が良いことで、カタログ値で20.2km/L、実燃費は16.12km/Lという素晴らしい性能を実現しています。経済性の高さも、商用車には欠かせないメリットです。
リセールバリュー
乗用ワゴンタイプのクリッパーリオ(全車ターボエンジン)の相場を参考に、リセールバリューを見てみましょう。
人気グレード<Gハイルーフ>(新車価格156万円)の、2年落ち走行2万kmの買取相場は106万1,000円で、リセールバリュー率は68%です。こちらもアトレーよりはリセールが高いですが、エブリイワゴンに比べると大分劣ります。これが軽自動車No.1を誇るスズキの、ユーザーからの信頼の高さを示していると言っても過言ではないでしょう。
おすすめワンボックス軽自動車サンバーバン
サンバーは、スバルが販売する伝統のブランドネームで、長年に渡り地方の農村などで大活躍している人気車種です。リアエンジン後輪駆動によりトラクション性能が高く、雪道や悪路での走破性に優れることから、<農道のポルシェ>の異名を持つ定番の軽商用車でした。
スバルお得意の4WD車も用意され、商用車の中でもマニアックなモデルとして支持されていましたが、2012年にスバルが自社での軽自動車製造から撤退したため、リアエンジンのサンバーは生産終了となりました。現在はダイハツからハイゼットカーゴをOEM供給され、サンバーバンとして販売されています。
スバルの悪路に強いワンボックス
かつてのサンバーはリアエンジンによる高性能を生かし、悪路に強いことで知られていました。スポーツカーのポルシェ911と同じでエンジンが後輪車軸の真上に搭載されているため、滑りやすい道でもタイヤがしっかりと路面を捉え、雪道やオフロードで威力を発揮します。雪国では通常のFRの軽ワンボックスよりも安心して走行ができることで支持されていました。
また、ターボではなくスーパーチャージャーを装備した高性能モデルも用意されていましたが、最高出力は58馬力しかないためポルシェのような走りはできません。
スバルサンバーバンの性能
現在販売されているサンバーバンは、ハイゼットカーゴと同じ660cc直列3気筒エンジンが搭載され、自然吸気が46馬力(4AT車は53馬力)、ターボが64馬力です。ターボの5速マニュアル車は燃費性能に優れ、カタログ値で18.8km/L、実燃費が18.37km/Lという数値を達成しています。
リセールバリュー
サンバーバンの人気グレード<トランスポーター>の4AT車(新車価格109万800円)で、2年落ち走行2万kmの中古車価格は79万9,000円です。買取価格はおよそ60万円で、リセール率は55%といったところです。
まとめ
軽自動車のワンボックスはキャブオーバーという構造を持ち、エンジンを含めた走行装置を車体下部に収めた車です。ボディの前から後ろまですべてを車内空間として利用でき、室内がとても広いのが魅力です。スズキとダイハツの軽ワンボックスは各自動車メーカーへとOEM供給され、近くの店で購入できるのもメリットです。
広々した室内を生かして、仕事にレジャーに大活躍する軽ワンボックスにぜひチェックしてみてくださいね!