車下取りの仕訳は、どう処理して良いのか分からないという悩みをよく聞きます。他の仕訳に比べると、少し複雑な車下取りは、法人や個人事業主で仕訳方法が異なります。
今回は、車下取りの仕訳について、ご紹介します。
目次
車下取りの仕訳とは?
経理関係者も思わず迷ってしまうほど、車下取りの仕訳は難しいようです。しかし仕組みをしっかり把握しておけば、スムーズな経理処理が可能です。
仕訳とは、簿記上の取引を借方と貸方に分け、適した勘定科目を定めてふるい分け、仕訳帳に記帳する作業になります。まず簿記の5要素として、下記の項目が挙げられます。
- 資産
- 負債
- 純資産
- 収益
- 費用
これらの数値が増減することによって、簿気上での取引が発生するのです。仕訳では、上記の取引要素を借方と貸方で、左右に分類します。そして、勘定科目と金額の詳細を仕訳帳に記帳します。取引を二つの勘定科目で見ることによって、増減の詳細を明確にすることができます。
借方と貸方の違い
損益計算書では、費用分を左側(借方)に記載し、収益分を右側(貸方)に記入します。それぞれの差額で利益や損失を算出し、黒字の場合は左側(借方)に利益、赤字の場合は左側(貸方)に損失を示します。
借方と貸方はこのような違いがありますが、減価償却費という項目が含まれることで少し混乱します。減価償却費は、一年以上の使用見込みがある固定資産を購入した場合、その金額を複数年にわたり、費用にしていく項目です。
減価償却は複数の方法がありますが、主に使用期間を配分の基準にする方法と生産高を配分基準にする方法の2つがあります。社用車として新たに車を購入した場合にも、この減価償却が用いられます。
勘定科目とは
勘定科目とは、仕訳や財務諸表などで使用される、表示金額の内容を示すものです。簿記の5要素の各項目に当たる、勘定科目を覚えることが、仕訳の第一歩とも言えます。
基本的に勘定科目は、明確な科目の定義があるわけでなく、税務調査の際に認められる内容であれば、各企業によって自由に設定することができます。ただし企業会計原則では、会計方針をみだりに変更してはいけない継続性の原則という定義があります。
勘定科目を変更することによって、長期的な会社財務を分析することが難しくなるといった弊害も生じますので、一度適用した勘定科目はその後変更することがないように注意が必要です。
車下取りや社用車購入においても、一度採用した勘定科目を変更することのないように、一貫性を保つことが重要です。
基本的な仕訳方法
実際に車を売却した時の仕訳方法を例に挙げて、基本的な仕訳方法をご紹介します。
簿記上での取引は、貸方と借方に分類して、整合性を図ります。例えば社用車を300万円で売却したケースでは、簿記上では下記の二つに分類できます。
- 現金が増加
- 社用車の減少
この分類した取引に、今度は勘定科目と金額を当てはめます。
- 現金が増加→勘定科目:現金(資産)・金額:300万円
- 社用車の減少→勘定科目:車(資産)・金額:300万円
そして勘定科目と金額を最後に左側(借方)と右側(貸方)に分けて、記入します。
このように、仕訳は1つの取引を2つの側面に分類しますが、同じ取引なので金額は当然一致します。ただし車売却の際には、この300万円の内訳が多岐に渡ります。車の売却時の仕訳については、別の記事でもご紹介していますので参考にしてください。
仕訳の法則とは?
原則として、左右は同じ取引なので金額が一致することが原則です。仕訳の法則は下記の組み合わせとなります。
- 資産の増加(左側・借方)−資産の減少(右側・貸方)
- 負債の減少(左側・借方)−負債の増加(右側・貸方)
- 資本の減少(左側・借方)−資本の増加(右側・貸方)
- 費用の発生(左側・借方)−収益の発生(右側・貸方)
仕訳を繰り返していくにつれ、自然と覚える内容ですが、簿記の5要素に属する勘定科目と合わせて覚えることで、仕訳がスムーズに進みます。
車下取りの仕訳方法
車下取りは、経理処理や計算法で、それぞれ仕訳が異なります。
また下取り価格が新車の購入価格に充当されることで、少し仕訳が複雑になります。さらにローンで購入した場合の仕訳はどうなるのかという疑問を持つ方も非常に多いです。それぞれの項目をここでは、掘り下げてご紹介します。
税込経理と税抜経理の違い
消費税課税事業者の場合は、経理処理で税込経理と税抜経理という選択肢があります。
まず税込処理とは、仕訳をする際に、取引した総額(税込)で経理処理する方法を意味します。そして税抜処理とは、仕訳をする際に取引した金額に含まれる消費税を別項目にして経理処理する方法を指します。
処理が簡単なので、多くの企業では税込処理が採用されていますが、社用車などに用いられる減価償却に関しては、税抜処理が有利なケースが多いです。税抜処理にすることで、仕訳上の取得価額(購入した金額)が、税込処理より少ない金額となり、結果的に節税にも繋がるのです。
ただし、全ての取引を同じ経理処理にするという原則がありますので、すでに税込経理で処理を行っている事業者は、注意が必要です。
直接法と間接法とは
減価償却の仕訳においては、直接法と間接法という計算方法があります。直接法は正式には直接控除法という名称で、固定資産から減価償却費を直接差し引きする計算方式となります。
そして間接法は正式には間接控除法という名称で、間接的に資産の金額を減らす方法となります。直接法とは右側(貸方)が異なり、固定資産を直接減らさず減価償却累計額を計上した上で、償却額の合計を表示する方法です。
さらに間接方の中でも、科目別間接控除法と一括間接控除法に分類され、それぞれの仕訳方法は下記になります。
- 科目別間接控除法:固定資産の種類ごとに減価償却累計額を反映
- 一括間接控除法:固定資産全体の減価償却累計額を反映
直接法と間接法の性質を比較すると、直接法は現在の状況を反映したもので、間接法は過去と現在の状況を反映したものとなります。そのため、直接法では今後費用にできる金額が分かりやすく、間接法では情報量が多いという、異なるメリットが発生します。
購入車両価格を下取り価格で充当した時の仕訳
購入車の価格だけであれば、いたってシンプルな仕訳となりますが、下取り価格で充当した場合には、それらの項目も加えなくてはいけません。購入車両価格を下取り価格で充当した場合の大まかな流れは下記になります。
- 購入した車の仕訳をまとめる
- 下取り車の仕訳をまとめる
- 購入した車と下取り車の仕訳を合算する
法人か個人事業主かによって計算方法は異なりますが、基本的な考えとしてこのように分類しておくと、混乱するようなことは少なくなります。
ローンを利用して車を購入した場合の仕訳
事業用の車をローンで購入した場合には、車両本体価格や諸経費、頭金とローン金額を分けて仕訳します。法人も個人事業主も、基本的には同じ仕訳方法です。まずローンの場合は、割賦手数料が発生しますが、こちらは取得時に長期前払費用に計上します。車の取得時に必要な項目は下記になります。
(左側・借方)
- 車両運搬具(車購入)
- 租税公課(自動車税)
- 保険料(自賠責保険)
- 支払手数料(代行手数料)
- 預託金(リサイクル料金)
- 長期前払費用(割賦手数料)
(右側・貸方)
- 仮払金(車両購入頭金)※頭金がある場合のみ
- 長期未払金(自動車ローン)
車両の取得時とは納車の時になります。減価償却をする場合は使用月からの償却となるため、契約月とは異なります。そして、毎月返済時の仕訳の際に、割賦手数料の総額から返済する月数で割った金額を支払利息として費用にします。
(左側・借方)
- 長期未払金(自動車ローン)
- 支払利息(割賦手数料)
(右側・貸方)
- 普通預金(自動車ローン)
- 長期前払費用(割賦手数料)
法人の車下取りの仕訳は
ここでは、300万円の車に下取り価格100万円を充当して、200万円で買い換えたと仮定して、仕訳のシミュレーションを行います。
先ほどご紹介した、下取り車・購入車両・それぞれの合算という、3つのステップに沿って進めていきます。経理処理と減価償却を組み合わせると、合計4通りの仕訳方法が可能ですが、車は課税取引となるため、今回は税込処理の直接法を用いて、計算します。
下取り車の仕訳
下取り車の仕訳に関しては、車売却時の仕訳と一緒です。
- 購入時の価格(帳簿価格)・・・2,000,000円
- 購入時に支払ったリサイクル預託金・・・18,000円
- 減価償却累計額・・・1,200,000円
- 売却時の車両の価値(帳簿価格)・・・800,000円
- 預託金を含む売却価格・・・1,000,000円
このように仮定すると、下取り車に対しての税込処理・直接法での仕訳は、下記になります。
(左側・借方)
- 現預金(売却価格):1,000,000円
(右側・貸方)
- 車両運搬具(帳簿価格):800,000円
- 預託金:18,000円
- 固定資産売却益:182,000円
新車取得の仕訳
続いて新車取得時の仕訳を行います。購入価格の300万円は、保険料や手数料も含めた総額です。
(左側・借方)
- 車両運搬具(車購入):2,800,000円
- 租税公課(自動車税・自動車重量税・自動車取得税):100,000円
- 保険料(自賠責保険・任意保険):72,000円
- 支払手数料(代行手数料):10,000円
- 預託金(リサイクル料金):18,000円
(右側・貸方)
- 現預金:3,000,000円
それぞれの仕訳を合算
車下取りの仕訳と新規購入車両の仕訳が終わった時点で、初めてこれらを合算します。
(左側・借方)
- 車両運搬具(車購入):2,800,000円
- 租税公課(自動車税・自動車重量税・自動車取得税):100,000円
- 保険料(自賠責保険・任意保険):72,000円
- 支払手数料(代行手数料):10,000円
- 預託金(リサイクル料金):18,000円
- 合計:3,000,000円
(右側・貸方)
- 車両運搬具(帳簿価格):800,000円
- 預託金:18,000円
- 固定資産売却益:182,000円
- 現預金:20,000,000
- 合計:3,000,000円
個人事業主の車下取りの仕訳は
個人事業主が下取り車の売却を行う際には、固定資産を譲渡したとみなされます。そのため、法人では固定資産売却損益となっていた項目に変わり、事業主貸という項目が適用されます。
個人事業主の場合は、自動車(固定資産)を売却した場合の所得は譲渡所得として計算する必要があるので、事業所得の帳簿からは損益を切り離す必要がある為です。
個人事業主が車下取りを行なった際には、譲渡所得として仕訳をする必要があり、本来個人の資産だったものを事業用に移動させた時に使用する事業主借へ変わります。
税込経理・直接法での車下取り時の仕訳
先ほどと同じく、300万円の車に下取り価格100万円を充当して、200万円で買い換えたと仮定し、仕訳のシミュレーションを行います。
(左側・借方)
- 車両運搬具(車購入):2,800,000円
- 租税公課(自動車税・自動車重量税・自動車取得税):100,000円
- 保険料(自賠責保険・任意保険):72,000円
- 支払手数料(代行手数料):10,000円
- 預託金(リサイクル料金):18,000円
- 合計:3,000,000円
(右側・貸方)
- 車両運搬具(帳簿価格):800,000円
- 預託金:18,000円
- 事業主借:182,000円
- 現預金:20,000,000
- 合計:3,000,000円
事業用の車下取りに最適な時期
売却益を確保するためにも、現在所有している車の下取り額を上げることは、非常に重要です。法人や個人事業主が車の買い替えをするのは、財政状況や期の区切りのタイミングが多く、長期的に計画を立てて行われているように感じます。せっかく長期的に計画を立てるのであれば、下取り車の価値が高い時期に、車の買い替えを行いたいものです。
中古車の需要が最も多く、自動車業界の繁忙期となるのが3月です。3月は年度末ということもあり、人々の生活環境が大きく変わります。新たに車を手に入れる必要がある方も多く、中古車販売店では在庫を増やしたい状況にあります。
そのため1月〜3月にかけては、下取り価格の相場が上がる傾向にあります。さらに新規で購入する車に関しても、キャンペーンが頻繁に行われる時期ですので、値引き額も大きくなる可能性がありますので、車下取り・新車購入の双方で見て、メリットが多い月なのです。
減価償却が終わったタイミングや車検前なども、買い替えのタイミングではありますが、資産を増やすためにもお得な時期に車を買い替えることをおすすめします。
まとめ
今回は、車下取りの仕訳について、ご紹介しました。車の買い替え時には、本来は一つの仕訳で済むものを下取り車・購入車両・これらの合算と複合的に行うために、やや複雑に見えます。
しかし、各項目をパートごとに割り振ることで、仕組みが分かりやすくなり、仕訳はスムーズに進みます。法人と個人事業主では仕訳方法が異なるので、その違いを把握した上で、仕訳を行いましょう。